チベットの仏画タンカを描くスペイン在住の日本人


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タンカのぼかしに使われる色材

タンカの特徴の一つとして、美しいグラデーションで陰影を施す”ダン”とよばれる技法があります。

他の主な色が鉱物を砕いた顔料で彩色されるのに対し、この”ダン”に使うのは染料。

”ダン”にはいくつか異なる技法がありますが、今回紹介する染料を使う場合は主に二種類。

無数の”線”で描くか、同じく無数の”点”で施すやりかたです。

僕の場合は、1人目のカルマ先生には点でのダンを習いました。その後、シェチェン寺のクンチョク先生から線でのダンを学び、その際にクンチョク先生から”うちの伝統では点でのダンはやらない”と言われて、それからは”線”だけでやっています。

濃淡をコントロールしながら、細かく短かい線を無数に描き込んでグラデーションを作ります。

タンカに使うキャンバスは特殊で、絹や紙とはまた違った水の吸収の仕方をするので、日本画や水彩画のように湿らせておいた画面に色を滲ませてぼかすといった技法は使われません。

来る日も来る日もチクチク、チクチクと細かい線を描き込むことで、少しずつ作業を進めていきます。

慣れればそれほど気を使う作業ではないので工房等では弟子の仕事の一つなのですが、空のような大きな部分だと作業の進展があまり感じられず、淡い部分に濃い線や点を入れてしまうとそれまでの苦労が水の泡。その修正が大変なので初心者の方はここで挫折する人が結構います。

忍耐が必要とされる作業ですが、この辺りもタンカの制作が仏教修行なんかと結び付けられる理由の一つかもしれません。

ダンを施す部分の大きさにもよりますが、最初にうちは空だけで数日から一週間、と考えて作業にあたったほうが気持ちにゆとりを持って制作できるので良いと思います。

 

1.インディゴ

色としては、まず一番よく使われるのがインディゴ、日本でも良く知られている藍です。 チベット語では”ラム”といいます。


二枚目の画像はネパールで広く使われているインディゴ。

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モロッコ産 藍 試し塗り
以前のエントリーで書いたモロッコのお土産にもらった藍を試し塗りして、他の藍と色合いを比較。



向かって左から少しずつずらして重ね塗り。
支持体はタンカのキャンバス。

インディゴの”水溶き”と書いてあるものは、水のみでインディゴを溶いたもの。対して”膠溶き”は膠溶液で溶いたもの。
これは、色合いの確認というより定着力の確認用。

モロッコの物はインド産よりずっと鮮やかで、水干絵の具の藍と比べても少しばかり鮮やかな感じ。
ネパールのものよりは落ち着いた感じ。 ちなみにこのネパールのインディゴは天然のものではありません。

そういえば、以前日本画の画材屋さんから、藍は合成でも良くできていて、化学組成も同じ(か、ほぼ同じ?)と聞いたことを思い出しました。
 
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