今から12年前。当時はベルギーに住んでタンカの制作をしていました。
ある日、オーガニックショップ"La Tsampa"に飾ってもらっていたグル・パドマサンバヴァのタンカを見てとても気に入ったというベルギー人のBさんがタンカの注文をお願いしたい、と訪ねてきました。
グル・パドマサンバヴァ
Bさん、小さな紙にプリントアウトした画像を差し出しながら
「注文したいタンカは少し特別なものです。こういう感じのものを描いてもらいたのですができますか?」
差し出された画像を見ると僧形の尊格が玉座に座っている絵がプリントされていて、両手で定印を結んでいることと玉座に孔雀が描かれていたことから阿弥陀如来と判断してBさんに質問。
西洋児「この見本の画像通りに描くのですか?」
Bさん 「いえ、これを参考によりよくして描いてください。」
西 「色は、、」
Bさん「色もこのプリントに近い感じでお願いします。」
西「チベットでは阿弥陀如来の体は赤い色ですが、赤くしても良いですか?」
Bさん 「それは困ります。体の色は肌色でお願いします。」
タンカを描く際には儀軌に従って描くことが重要で、絵師の都合で好きなようにいろいろと変更することは基本的には認められません。ですが今回の場合、日本の仏画において阿弥陀仏の体が白や肌色で描かれることがよくあり、逆にチベットのように赤色で描かれることはまずないことからBさんの希望通りに描くことも可能だと伝えました。
Bさんは他にもいろいろと細かい部分へのこだわりがあり、例えば背景には何も描かず黒一色、そして髪の毛は経典にあるようにすべて右巻き、、、などなど。
チベット伝統カルマ・ガディ派のタンカ以外は描き慣れてないために制作にかなり時間がかかるのですが、Bさんの熱心な語りに負けて注文をお引き受けすることにしました。
実際に制作にはかなり時間がかかり、またBさんが持ち込んだ見本の画像はかなり簡易的な極小さいプリントだったので、細かい部分はこちらの想像力をかなり働かせないといけませんでした。
半ば創作作品とは言え、尊格のプロポーションは正しいものを描き、衣も描き慣れているチベットのタンカ様式に、また黒い背景に良く映えるように金泥を大目に使い、頭光の部分にも金泥を塗りそれを尖った瑪瑙で磨くことで模様を作り出すなど工夫を凝らし制作した完成作品は見本画像にできるだけ忠実で、しかも正しい尊格の在り様で描くことができ自分自身では満足のいくものでした。
とは言え、伝統的なタンカでもそうですが、創作作品の場合は特に絵師の好みが注文主の好みと常に一致するとは限らないので、Bさんに完成品を確認していただいて大変喜んでもらえた時には正直ホッとしたのを覚えています。
このタンカの完成品はホームページで見ていただけます。
尊格の表情や細かい描写など、今見ても満足のいく出来栄えです。ただ画像データの画質があまりよくないので、右巻きの頭髪や八吉祥を描いた衣の金泥模様などの本当に細かい部分があまり確認できないのが残念です。
因みに、ホームページでは公開していませんが見本としてBさんに渡された画像はこちらです。
私も「山越阿弥陀図」を描き上げたばかりですが、とてもお恥ずかしくてお見せできません…。
お久しぶりです。
12年も前の作品を、今見ても結構よく描けていると思うのが嬉しい反面、 この12年それほど上達してないのかな?と思ってしまいました。
山越阿弥陀図、公開してくださいね。